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2016年12月14日

インドネシア バンテインにおける開放系多栄養段階養殖(Satoumiテクノパーク構想)について

日時
2016年12月6日(火)~8日(木)
場所
インドネシア バンテイン

概要

2016年12月6日―8日、インドネシア技術評価応用庁(BPPT)から依頼を受け、現在インドネシアの4か所で展開されている“Satoumiテクノパーク構想”の進捗状況をチェックするため、柳(国際エメックスセンター)がスラウェシ島南部の地方都市バンテイン市(人口約17万人)を訪れた。
12月6日(火)は午前中、ジャカルタから南スラウェシ州の州都であるマカサル(人口約170万人)に飛行機で約2時間かけて飛んだ。マカサルで昼食を済ませ、約4時間かけて、車でバンテインに到着し、市の担当者に挨拶して、そのままホテルに宿泊した。
12月7日(水)は、午前中、市の稚魚養育場を見学した後、海藻養殖現場・魚類養殖現場を視察した。バンテイン南岸約20kmの海岸線に沿って沖合約1kmまではほとんどの海域で海藻(コトニ)養殖が1998年頃から盛んに行われるようになり、現在では市の主要産業のひとつになっている。この養殖の成功により、2011年には約1000人だった市の漁民数は2015年には約1800人まで増加した。海藻養殖は天然の海藻の茎を長さ5cm程度に切断し、直径約3mmのロープに約5cm間隔で挟み込み、長さ25~100mのロープを600mlの空ペットボトルを浮きにして、両端をアンカーで固定し、海面に浮かせるという、安価な仕掛けで行われる。これを約45日間垂下し、長さ約20cmまで成長した海藻を刈り取り、数日間天日干しして出荷する。コトニは食品・薬品・化粧品・化学製品など用途が多く、良い値段で引き取られる。海藻養殖場の現場を見て、少し密殖では、という気がした。これとは独立して、別の漁民グループにより、いくつかの海域で塩水テラピア・Seabass・グルーパー・ロブスターなどの魚類養殖が行われている。
午後は、市の担当者・研究員・漁民代表など約30名との懇談会が行われた。午前中の視察の感想を述べたところ、市の担当者は、2014年まで順調に海藻水揚げ量は増えてきたが、それ以後水揚げ量が減少しているとのことだった。驚いたことに、市の研究機関では、水温・塩分・pH・DO・SSなど水質計で鉛直分布が測定可能な項目に関しては海藻・魚類養殖場の定点で定期的に観測を行っているが、採水・採泥後実験室での分析が必要なDIP・DIN・AVSなどに関しては一切モニタリングを行っていない。
懇談会の最後にコメントを求められた筆者は「バンテイン沖海域で持続可能な養殖を行うためには、まず養殖の環境容量を知る必要がある。海藻養殖の環境容量は海藻の律速栄養塩の半飽和定数とその2倍濃度の間に現場海域の栄養塩濃度が収まるような養殖量を維持することである。魚類養殖の環境容量は、養殖場下に沈降する残餌と糞が埋没前にすべて分解されるような範囲に収まっていることを示す底泥表層のAVS濃度をある値以下に収めるような養殖量・投餌量を維持することである。一方、海藻・魚類養殖の環境容量を以下のような工夫で大きくして、生産量(収益)を増やすことも可能である。すなわち、海藻養殖場と魚類養殖場を交互に配置すれば、魚類養殖場の残餌や糞からの分解栄養塩が海藻養殖の環境容量を大きくし、海藻養殖場における栄養塩の吸収が魚類養殖場の環境浄化に役立ち、魚類養殖の環境容量を大きくするので、両者はwin-win関係になる。このような開放系多栄養段階養殖を適切に設計するためには、まず海藻養殖場の栄養塩濃度と魚類養殖場の底質AVS濃度の空間・季節変動を観測して、それぞれの環境容量を明らかにした後、どのような両者の配置がwin-win関係を成立させるか設計し、現場海域でtrial -and-errorを繰り返し、持続可能な最適養殖法を確立して欲しい」と話した。
多くの質疑応答の後、閉会の挨拶を行った市の水産局長は、「バンテインのSatoumiテクノパークの目玉成果を得るために、この多栄養段階養殖を試してみたい」と述べた。
カラワン海岸で閉鎖系多栄養段階養殖に成功したインドネシア(Suhendar et al., 2014)で、開放系多栄養段階養殖が成功すれば、それは世界の持続可能な養殖の将来に対する大きな貢献になるだろう。
12月8日(木)は午前中、塩水テラピア・ロブスターなどの稚魚を漁民に販売する民間稚魚養育場、グルーパーやロブスターなどの生・冷凍品を主に香港に輸出している輸出業者、コトニのテンプラ・センベイ・フリカケの他、現地で取れた小魚やエビのスナックを製造・販売している食品加工場などを見学し、輸出業者から買ったロブスターを市の担当者行きつけの海鮮レストランに持ち込んで調理してもらって昼食をとり、今回の仕事を完了し、午後はマカサルへの帰途についた。帰りの車の中では、二日間現地で見た養殖場・食品加工場・輸出業者の水槽・稚魚育成場の小魚の群れ、など様々な情景が思い出され、レストランも含め、バンテインでは“里海資本”を使った様々な地元産業(“里”ビジネス)が育ちつつあることを実感して、暖かい心持になった。

柳 哲雄

参考文献

S.I. Sachoemar, T. Yanagi and R.S. Aliah. 2014. Sustainable Aquaculture to Improve Productivity and Water Quality of Marginal Brackishwater Pond. Journal of Coastal Marine Science. 37(1): 1–8.