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環境省環境研究総合推進費S-13 持続可能な沿岸海域実現を目指した沿岸海域管理手法の開発環境省環境研究総合推進費S-13 持続可能な沿岸海域実現を目指した沿岸海域管理手法の開発

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2017年1月23日

平成28年度公開成果発表会の概要

日時
平成28年11月30日(月)10:00~17:00
場所
大手町ファーストスクエアカンファレンス Room A

概要

平成28年度公開成果発表会は、大手町ファーストスクエアカンファレンス(東京都)で開催され、関係する研究者や行政関係者等が参加した。
発表では、環境省環境研究総合推進費S-13プロジェクト「持続可能な沿岸海域実現を目指した沿岸海域管理手法の開発」においてこれまで得られた研究成果についてプロジェクトメンバーから報告があり、今後の研究の方向性等について意見交換が行われた。

主催

環境省環境研究総合推進費S-13プロジェクト
公益財団法人国際エメックスセンターー

講師(講演順)

総  括 S-13プロジェクトについて  柳 哲雄(国際エメックスセンター)

テーマ1 閉鎖性海域・瀬戸内海における栄養塩濃度管理手法の開発

S-13-(1) 栄養塩濃度管理法開発
西嶋 渉(広島大学)
S-13-(2) 干潟・藻場の栄養物質循環・生物再生産に果たす機能の解明
多田 邦尚(香川大学)

テーマ2 開放性内湾が連なる三陸沿岸海域における沿岸環境管理法の開発

S13-2-(1) 遷移する沿岸環境監視とそれを応用した沿岸海域管理法開発
小松 輝久(東京大学)
S13-2-(2) 志津川湾におけるカキ養殖を巡る栄養塩循環について
門谷 茂(北海道大学)
S13-2-(3)1 森-海の物質輸送に果たす有機物の役割解明 -志津川湾における溶存鉄の動態と生物利用性-
吉村 千洋(東京工業大学)
S13-2-(3)2 志津川湾における環境管理適正化に向けた粒状有機物動態の解析
西村 修(東北大学)

テーマ3 陸棚・島嶼を含む国際的閉鎖海域・日本海の海域管理法の開発

S13-3-(1) 日本海における3階層管理
吉田 尚郁(環日本海環境協力センター)
S13-3-(2)1 日本海低次生態系への東シナ海からの栄養塩輸送の影響
森本 昭彦(愛媛大学)
S13-3-(2)2 日本海の将来環境変動予測
広瀬 直毅(九州大学)
S13-3-(3) 日本海重要生物の持続的利用のためのダイナミックMPA
郭 新宇(愛媛大学)

テーマ4 沿岸海域の生態系サービスの経済評価・統合沿岸管理モデルの提示

S13-4-(1)沿岸海域の生態系サービスの経済評価とサステイナビリティ
仲上 健一(立命館大学)
S13-4-(2) 沿岸海域の多段階管理仮説とその適応可能性
日高 健(近畿大学)
S13-4-(3) 里海文化の多様性-魚食文化を中心に
印南 敏秀(愛知大学)
S13-4-(4) 対馬・五島における総合的海洋環境政策としての海洋保護区
清野 聡子(九州大学)

テーマ5沿岸海域管理のための統合数値モデル構築

S13-5 柳 哲雄(国際エメックスセンター)

発表

総括 S13プロジェクトについて

国際エメックスエンター 柳 哲雄

S13プロジェクトの研究はテーマ1~5で構成され、テーマ1では閉鎖性海域としての瀬戸内海をとりあげ水質管理法・生物多様性・貧酸素水塊など、テーマ2では開放的な内湾としての三陸沿岸をとりあげ津波からの環境回復・人手・森川海のつながりの解明など、テーマ3では国際共同管理が必要な日本海についてMPAの設定も含めて研究している。また、テーマ4では社会科学・人文科学面からの生態系サービスや漁民以外の人々が沿岸海域の管理にどうかかわるかについて研究を行っている。これらの研究成果をもとに、テーマ5として、「きれいで豊かで賑わいのある持続可能な沿岸海域(里海)」の実現を目指して沿岸域統合数値モデルを作成する。このモデルを用いて「里海の定量化」を行い、管理法を協議会に提案して里海を実現するとともに、その取組みを世界発信していく。

テーマ1 閉鎖性海域・瀬戸内海における栄養塩濃度管理法の開発

(1)瀬戸内海における栄養塩濃度管理法の開発

広島大学 西嶋 渉

栄養塩は赤潮等の発生の原因にもなるが生態系にとって重要なものである。テーマ1は栄養塩管理により水質の保全とともに高い生物生産性を両立させることを目的としている。このため、栄養塩がどのように生物に移っていくのかを把握するため、光環境とプランクトンによる転送、プランクトン食魚について研究している。光環境については、プランクトンがない場合の透明度として「地域固有透明度(BSD)」の分布を明らかにした。さらに、BSDと塩分及び密度躍層から夏季のプランクトンの発生指標として「脆弱性指標(VI)」を求めマップを作製したところ、赤潮の発生海域とよく一致した。このことから、陸域からの負荷削減だけではなく、脆弱性の高い海域に特化した対策が必要であることがわかった。プランクトンの転送については、広島湾から安芸灘・燧灘において一次生産から二次生産に関して調査を行ったところ、広島湾では湾奥で一次生産が夏季に高くなるが、全体として転送効率は10%程度の値となった。長期データのある大阪湾の動物プランクトンでは、1980年代以降カイアシ類の減少は起こっていないが繊毛虫類は2000年頃から減少している。カイアシ類の転送効率はほぼ10%程度で安定している。プランクトン食魚では、底質の砂への依存性が高いイカナゴの漁獲量は減少傾向であるが、太平洋で産卵するカタクチイワシの資源量は近年回復している。プランクトン食魚が実際に魚食魚のエサとなっているかタチウオの胃内容物調査により確認を行っている。

<質疑応答>

Q:脆弱性の指標は夏場のクロロフィルaだけから求めていることから、夏場の指標なのか。

A:赤潮などが発生する夏場を、脆弱性の指標の対象にしている。脆弱性は、春から夏にかけての植物プランクトンの増殖の起こりやすさの指標である。

(2)沿岸域の栄養塩循環に果たす藻場・干潟域の機能解明

香川大学 一見 和彦

今年度は、沿岸域の栄養塩循環に果たす干潟域の機能解明について研究を行っている。その結果、「河口干潟」においては、流入した懸濁態窒素や懸濁態リンが無機化されて流出することが明らかになり、「河口干潟」は無機化する場所(自然の浄化槽)であることがわかった。今年の研究対象である「前浜干潟」は栄養度が低くベントスが少ないという特徴があり、香川県では全干潟の64%の面積を占めている。一潮汐における観測で窒素の収支を求めたところ、2月では流入62g/10hに対し流出31g/10hであり干潟で5割程度が捕捉される。5月では粒状態窒素の2割程度の捕捉があり、7月では3割程度の捕捉が推定された。今年度の研究で、前浜干潟も河口干潟ほど大きくはないが、懸濁態有機物を捕捉し無機化する機能を有していることが明らかとなった。今後の測定結果も踏まえ、年間を通して干潟が栄養塩循環に果たす機能的役割の評価を行う。

<質疑応答>

Q:懸濁体や溶存体の栄養塩は流れとともに干潟に入る、懸濁態と溶存態の栄養塩の濃度差は5倍くらいあると考えてよいのか。

A:そのくらい開いているときがある。プランクトンがブルーム起こしているときなどはそのくらいの差になる。

テーマ2 開放性内湾が連なる三陸沿岸海域における沿岸環境管理法の開発

(1)遷移する沿岸環境監視とそれを応用した沿岸海域管理法開発

東京大学 小松 輝久

テーマ2では、リモートセンシングにより遷移する沿岸生態系の沿岸域監視法の開発、「森は海の恋人」仮説の定量的評価、生態系モデル作成のためのデータ取得、生態系モデルを用いた志津川湾内の物質循環について研究している。さらに、テーマ4、テーマ5と連携し統合型沿岸海域モデルの開発を行い、政策提言を行うこととしている。2009年(震災前)、2012年(震災後)、2014年の藻場のマッピングを行った結果、アマモ場・岩礁性藻場の増減の状況やウニの食害による磯焼けの状況が明らかになった。震災後はウニを取らなかったので、ウニが増加しアラメ場は震災前に戻っていない。適正な漁業が豊かな生物多様性を生む事例であると考えられる。また、漁業組合長からの要請に基づき筏の配置状況をマッピングして可視化を行い、生態系モデルを用いて漁業者とともに筏台数の削減がカキの身入りや成長速度を速めることを確認し、漁業者とともに筏台数の削減を行った。モデルを用いた沿岸海域管理法の開発は、志津川湾の環境管理や適正な漁業の構築に役立ったと考えられる。モデルでの計算結果は、カキ養殖に関するASC認証やラムサール条約への申請にも活用されている。

<質疑応答>

Q:志津川湾の湾奥においてカキの身入りが良くなったのは、筏の台数を減らして潮の流れがよくなったからなのか、餌の配分が多くなったからのか、どちらなのか。

A:両方であるが、筏の適正配置による潮の流動改善効果が大きいと思う。

Q:水揚量や水揚高はどうだったのか。

A:総水揚量や総水揚高は減少したが、単位筏当たりの水揚量は増加している。

Q:カキの餌になる植物プランクトンと養殖ワカメとは栄養塩の取り合いとなっているのではないか。

A:カキが餌を活発に食べる時期は夏から冬までであり、ワカメは冬から春の生長なので、カキの餌としての植物プランクトンと養殖ワカメとは栄養塩の取り合いにはならないと考える。

(2)志津川湾におけるカキ養殖を巡る栄養塩循環について

北海道大学 門谷 茂

志津川湾では約9千トンの二枚貝を養殖しており、全国の1%強を占める。このように物質循環を見るときにカキは大きなインパクトを有することから、カキ養殖を巡る物質循環を定量化することが研究の目的である。栄養塩から微細藻類ができカキが育つ流れについて定量化を行っている。湾内15の定点と3河川の測定により栄養塩の供給量を計算したところ、河川からは湾奥部のDIN現存量の1~10%程度相当量が1日に流入する。外洋からは、河川供給の約28倍、湾奥部のDIN現存量の55%(河川:2%)と計算され、外洋からの影響が大きいことが推定された。また、カキ筏の養殖ロープ1本あたりのカキと付着動物の重量測定を行い、安定同位体分析やカキの栄養塩再生速度及び排泄量等をもとに再生産を推定すると、カキでは数%、イガイなど付着動物なども含めると10%程度の再生産があることがわかった。

(3)森―海の物質輸送に果たす有機物の役割解明

東京工業大学 吉村 千洋

水域での鉄などのミネラル成分は腐植物質など有機物と結合した形で存在し輸送され、一部が基礎生産に利用されており、森林で形成される有機鉄が沿岸域の基礎生産にどの程度貢献しているのかを定量的に明らかにすることが研究目的である。このため、湾内13点と河川12地点の測定ポイントを設け、鉄と有機物の動態、土地利用形態と鉄の収支計算を行った。その結果、土地利用形態とその土壌からの鉄溶出には明確な差異はみられず、実際には農地や家屋からの流出量が濃度に影響していると考えられた。また、春季の河川からの鉄の流入推定値は鉄取り込みの約14%となった。今後は、季節ごとの評価、土地利用ごとのフラックス、大型海藻への移行、海水交換・溶出の評価等を行っていく。

<質疑応答>

Q:PHと無機鉄若しくは有機鉄の酸化速度は関数としてとらえることができるのか。

A:PHと無機鉄の関係はモデル化できており、無機鉄に関しては直線が引ける。しかし、有機鉄の酸化速度のモデル化は難しい。そこにかかわってくる反応定数は、有機物の構造で変わってくるためで、有機物の化学構造と酸化速度の関係は、理論的には説明できていない部分が多く、実験的にデータを得ている状況です。

Q:塩分があるところでも、高い鉄濃度があったのか。

A:塩分濃度が上昇すると河川中の有機物と鉄は9割程度沈殿する。塩分が流入する部分では大きな変化があることがわかっている

(4)志津川湾における環境管理適正化に向けた粒状有機物動態の解析

東北大学 坂巻 修

志津川湾において、粒状有機物の起源や動態、カキのエサ起源、陸域の寄与及びカキ養殖の環境影響について研究を進めている。カキの有機物の起源については、カキの身の炭素安定同位体比や脂肪酸組成分析の結果、海水中の粒状有機物濃度が高い時は内部生産起源、濃度が低い時は陸域起源の有機物が卓越すると考えられ、内部生産起源の寄与がかなり大きいと考えられた。カキのエサ源については、脂肪酸割合の分析では、珪藻・渦鞭毛藻由来が多く、陸域起源有機物由来は少ないことが推定された。カキの成長について、2年間の飼育実験を行った結果、養殖密度の低い戸倉地区の成長が早いことが明らかになったが、これは養殖密度が重要な成長因子となっており、地元漁師の実感とも一致していた。カキ養殖の環境影響については、カキ養殖施設内では施設外よりもCN比が低く酸素消費活性が大きいということが分かった。粒子の質が酸素消費量に影響していた。これらのことから、養殖筏の削減がカキの生産性向上と生態系の保全に有効であることがわかった。

<質疑応答>

Q:カキの養殖場内外の有機物について、具体的には何が異なるのか。

A:CN比は多少異なる、養殖場内の有機物は、カキの糞、付着物の剥離物等と考えられる。

テーマ3 陸棚・島嶼を含む国際的閉鎖海域・日本海の海域管理法の開発

(1)日本海における3階層管理

公益財団法人環日本海環境協力センター  吉田 尚郁

テーマ3では、日本海を対象海域として、日本海の物質循環、低次高次生態系の応答、将来変動も含めた今後の管理のあり方を研究している。日本海では温暖化による水温上昇、東シナ海からの栄養塩負荷量増加の影響、中国における南水北調等の影響により環境が変動しており、これらが日本海にどう影響するのかを生態系モデルを活用し研究を進めている。東シナ海の影響については、数値モデルの結果により、日本海中部海域までは約8割は東シナ海起源の海水であり、基礎生産に関しては約6割が東シナ海起源の栄養塩を使って生産を行っているがわかった。安定同位体解析では低次から高次まで生態系がきれいにつながっていることがわかった。高次生態系モデルによりスルメイカやズワイガニの輸送・生残から、資源量推定できるようになった。日本海の沿岸域管理について、将来変動、東シナ海からの影響、生態系への影響の観点から検討を進めているが、広域であるため大規模・中規模・局所の3階層管理を考えている。広域管理としてNOWPAPや日中韓連携による「国際共同監視」、中規模管理としてスルメイカでは「静的MPA」、ズワイガニでは「動的MPA]の導入、局所管理として「富山湾ヘルシープラン」を考えていきたい。

<質疑応答>

Q:北海道がモニターしている日本海側の観測点では、栄養塩濃度が長期低落している。東シナ海からの栄養塩濃度は上がっているのに、なぜ北海道では栄養塩濃度が下がるのか。

A:北上するに従って、東シナ海由来の栄養塩の寄与度が下がるが、深層からの供給量が増えてくる。近年、温暖化に伴い鉛直混合が弱まり、深層からの供給が減ってきているのが影響していると思う。

(2)1 日本海低次生態系への東シナ海からの栄養塩輸送の影響

愛媛大学 森本 昭彦

日本海は対馬暖流によって栄養塩が東シナ海から輸送されており、塩分の分布状況から、長江から流入した河川水の影響を受けている。日本海へ輸送される栄養塩は季節的に変化し夏と秋に多く、経年的には変化が大きいが一定の傾向は見られない。このメカニズムを解明するために物理・生態系結合モデルを開発し、クロロフィルaの衛星データと計算結果を比較した結果、ほぼモデルで再現できていることを確認した。3階層管理のため、日本海の基礎生産に対する栄養塩の起源別寄与率を計算したところ、北緯40度以北の日本海北部ではほぼ日本海起源、能登半島より西では80~90%程度、能登半島より東では70%程度が対馬海峡起源の栄養塩が使われており、日本の河川起源はごく限られた領域のみであることがわかった。このことから、栄養塩管理には国際的協力が必要であるということがわかった。現在、対馬海峡において黄河・長江・黒潮・台湾海峡から入ってくる栄養塩の割合について計算を行っており、長江の河川水の変動が今後日本海にどう影響するか予測を行う。

<質疑応答>

Q:2011年のサイエンスの論文では、1980年代から日本海において窒素が非常に増えており、これは大気からの供給だと結論づけていた。このモデルでは大気からの寄与は考慮されているのか。

A:考慮していない。今後、大気からの窒素供給量をモデルに入れる予定である。

(2)2 日本海の将来環境変動予測

九州大学 広瀬 直毅

日本海は溶存酸素濃度が高く、海水の混合が活発に行われている。この溶存酸素に着目して日本海の将来の環境変動の予測をすることが研究目的である。溶存酸素の分布状況は植物プランクトン量に依存することから、植物プランクトンの生物モデルを作成しないと再現できない。生物モデルとしてNPZDモデルがあるが、多数のパラメータを用いており、このパラメータの信頼性を確認する必要がある。このため、グリーン関数によりデータ量の多い溶存酸素濃度を用いてモデル中の最適パラメータの逆推定を行い、NPZDモデルを最適化した。この再現性を高めたモデルを用いて、日本海水温の長期変化の計算を行った結果、過去100年の日本海の水温上昇は緩やかであったが、今後の水温は2.4℃/100年のペースで加速度的に上昇し、溶存酸素量はそれに反比例して低下すると予測できた。さらに、このモデルでは栄養塩やプランクトンの状況も予測することができ、今後いくつかのシナリオの設定を行い、将来予測を行っていく。

<質疑応答>

Q:今回示された日本海の水温上昇はどの程度の水深を想定しているのか。

A:今回は海面水温の上昇だけを示した。深い方の温度変化は今後見ていきたい。

(3)日本海重要生物の持続的利用のためのダイナミックMPA

愛媛大学 郭 新宇

ズワイガニの幼生の輸送・生残モデルの開発を行い、日本海の環境管理について高次生態系の視点から、環境変動応答の予測や海洋保護区の提言を行うことを研究目的としている。ズワイガニの生態を数値モデルに組み込み、親雌ガニの密度に応じた1グリッドあたりの粒子の配置数を決定し粒子の追跡を行い、着底した粒子の場所や数について数値モデルを用いて計算した。この結果に基づき「動的保護区」の設定を検討した。「動的保護区」を設け、幼生が生き残りやすい出発点のエリアを特定して一定期間保護を行った場合、従来の「静的保護区」を設けた場合より、着底粒子を保護できる割合は約2倍高くなることがわかった。

<質疑応答>

Q:着底の条件は水深だけか。

A:粒子が水深200~500mで落ちていれば、着底が成功とみなしている。

テーマ4 沿岸海域の生態系サービスの経済評価・統合沿岸管理モデルの提示

(1)沿岸海域の生態系サービスの経済評価とサスティナビリティ

立命館大学 仲上 健一

日本の沿岸海域では藻場・干潟が減少しているころから、沿岸海域の保全に関して生態系サービスや経済評価をしっかりと行うとともに、さらに、里海をベースにした統合的沿岸海域管理が必要である。テーマ4では、三陸(志津川湾)、日本海(七尾湾)、瀬戸内海(日生)を対象に事例研究を進めている。生態系サービスの経済的価値の測定については、ネットアンケートにより調査を行うとともに、便益移転法等により推計を行った。さらに、経済的評価だけでなくて生態系サービスの評価としてサスティナビリティ評価手法の開発と試験的運用を行うことにしている。その一環として、資本の社会的価値の変化で測定を行う「包括的富指標」を用いて、瀬戸内海において試験的に評価を行ったところ、50年前と比較して現在は4割程度下がっていると計算され、特に自然資本が低下していた。今後2050年・2100年に向けて瀬戸内海の価値がどうなるか各資本の構成内容の検討を行い、包括的富の指標の精度を上げることにより統合的沿岸域管理に寄与できると考えている。

<質疑応答>

Q:サスティナビリティ評価手法の包括的指標は、具体的にはどういう数値が入っているのか、この数字の算出式はあるのか。

A:藻場の面積、サワラの漁獲量、カキなど3つぐらいの指標で算出している。瀬戸内海は3つだけの指標で算出できないので、里海という望ましい姿を設定して指標を作っている。現在、新たな指標を加えて、包括的な資本を計算できるレベルまできている。

(2)沿岸海域の多段階管理仮説とその適応可能性

近畿大学 日高 健

「沿岸域の管理」には、市町村と地域住民の協働によるボトムアップ型の地域あげてのアプローチ、都道府県によるトップダウン型の全政府あげてのアプローチがある。それらを支援型アプローチで連携させることにより、良い管理の仕組みができるのではないかというのが多段階管理仮説の骨格である。多段階管理仮説は、里海、里海ネットワーク、沿岸域インフラを統合し、都道府県の管轄海域の沿岸域をガバナンスの束として結合することである。
都道府県の海域を超えて広がる沿岸域では、都道府県の協定によって連携すればよく、瀬戸内海においては、瀬戸内法で定める湾灘協議会で行ってもらうのがよいと考えている。
大阪湾には大阪湾再生行動計画があり、目標や理念の設定、施策や評価指標の作成を行い、関係者やNPOが大阪湾の再生計画に携わっている。さらに事業評価を毎年行い、5年ごとに行動計画を見直している。これは多段階管理の原型であり、今後、調査を行いたいと考えている。

(3)里海文化の多様性 -魚食文化を中心に

愛知大学 印南 敏秀

日本には地域の海産資源を利用した伝統的な「魚食文化」がある。「魚食文化」には世界でも例をみない多様性と豊かさがある。「里海文化」の創生には多様で豊かな「魚食文化」の価値を正当に評価し、魅力的な「里海物語」として継承していく必要がある。
保存食にはじまる魚介類の発酵食品は、全国で多様に展開している。伝統的な魚醬油は郷土料理の味付けだけでなく、素材の多様化によるブランド化、発酵文化を通しての海外との新たな交流がはじまっている。サバのへしこ(糠漬)も保存食から健康食品として見直され、地域の土産物としてまちおこしに役立っている。
高級魚は、地域や人をつなぐ贈答品の中心だった。東瀬戸内海では春になると、大阪ではタイ、岡山や香川ではサワラが、年中行事や人生儀礼になくてはならない贈答魚だった。贈答魚は各部位の食味をいかして多様に調理され、無駄をださずに食べつくした。 
こうした日本の多様で豊かな魚食文化は、日本の里海文化のなかで重要な役割をはたしてきた。今後は日本だけでなく世界に里海文化を発信するときにも大きな役割をはたすはずである。そして、だれにでも魅力をわかってもらうには、里海物語として発信する必要がある。

<質疑応答>

Q:新しい日本の伝統食品を作る動きはないのか。

A:日本の海産物の伝統食品は、全体としては衰退している。継承・発展させるには健康や環境によいといったより高い付加価値を発見する必要があり、自然と人文分野の協力が必要である。たとえば関サバは、肉の分析で評価がうらづけられ、優れた漁民の伝統的な管理技術とあわせ、刺身として高い価値を持っことができた。

(4)対馬・五島における統合的海洋環境政策としての海洋保護区

九州大学 清野 聡子

我が国においては包括的な海洋環境政策は立ち遅れている。政府が「海洋保護区」として認識することとした区域は8.3%であり、愛知目標の10%目標には至っていない状況である。このような中で、自然環境保全制度が充実している瀬戸内海、対馬市及び五島市における総合海洋環境施策の事例研究を行っている。対馬市及び五島市は、対馬暖流による豊かな自然の恵みと沿岸生態系を有していることから、対馬市では海洋保護区の設定に向けた取組みを行っており、五島市では漁村コミュニティを含めて世界遺産に登録申請するなど、漁村の維持と海洋生態系の保全に同時に取り組むという特徴的な施策を進めている。このような自然保護の取組みがなければ、沿岸地域において土砂採取などの乱開発が進み、沿岸漁場は崩壊し、防災上も危険地区が増えるため、地域の生き残りが困難になる。  最近、流通業において保護区の魚を高く評価する動きがある。海洋保護区で取れた魚類は安心・安全であると消費者から応援され、魚価に反映されることが保護区の存在価値を高める。今後「愛知目標」で決定された海洋保護区を2020年までに10%にする目標に、「対馬暖流ネットワーク」を形成して協働して取り組みたい。

<質疑応答>

Q:対馬の海洋保護区の取組みはどこまで進んでいるのか。

A:共同漁業権区域を島の海洋保護区として、各漁協が保全に取り組んでいくことでほぼ合意された。今年度、各漁協が課題をリストアップして、来年度から管理方策について協議を進めていく。

テーマ5 沿岸域管理のための統合数値モデル構築

国際エメックスセンター 柳 哲雄

沿岸域管理のための統合数値モデルは、陸域・外洋・底質・大気の沿岸海域への影響を計算する数値モデルと人間活動の影響を予測する社会科学モデルを統合したものである。昨年は志津川湾で数値モデルの作成を行ったが、今年は統合モデルに発展させる。瀬戸内海では全域を計算できる数値モデルを作成し、1950年当時の物質循環を再現し将来の瀬戸内海の望ましい姿を立案できるモデルを作成する。富山湾では今年から統合モデルの作成を行う。この3つの海域の統合数値モデルを作成することにより、日本の全海域においてモデルが活用できるようにしたい。これまでの成果として、志津川湾の数値モデルでは、震災後のカキ養殖筏削減による収穫効率と環境改善の効果を再現することができた。今後、脆弱性の高い海域でどうすれば転送効率を上げられるか、干潟・藻場の効果について精度を上げて計算を行う。

<質疑応答>

Q:志津川湾のモデルで計算しているのはカキ等特殊な水産物であるが、このモデルは他の沿岸域に適用できるのか。

A:志津川湾において。カキ養殖の場合のモデルを構築して、あとは条件を変えていけば他の湾でも活用できるようなものにしていきたい。

総合討論

Q:沿岸域管理のための統合数値モデルには3つのモデルがあり、それを個々に応用するという話であったが、志津川湾のモデルでのASC認証や森川海のつながりなど、瀬戸内海のモデルでも参考になると思う。3つのモデルにつながりがあってもよいのではないか。これまで、全体のモデルが期待されていたのではないか。

A:共通のモデル構造はあるが、万能のモデル構造はないので、その海域によってモデルは異なる。良いモデルができれば個々の海域での応用は可能だと考えている。

Q:統合型沿岸海域モデルができた場合、モデル計算に基づいた具体的な政策提言は、どのように行うのか。どのように世界に発信を行うのか。

A:政策提言は、環境省閉鎖性海域対策室に、MPAに関しては環境海洋室に行う。海外には、出版契約を締結したエルゼビアから発信する。今年はインドネシアにおいて、来年は日仏海洋学会において成果発表を行う。さらに、2年後タイで開催されるエメックス会議において成果の発表を行う。

Q:海洋保護区は、漁業だけでなくても観光など他の経済活動にも効果を及ぼす場所が指定されている。水産以外の要素がないと水産関係者以外の者が追随しないのではないかと思う。海洋保護区を設定することによって自動的にASC認証を取得できるとか、インセンティブを与えれば、水産関係者以外の者が追随する。

A:サスティナブルシーフードの流れは確実にあり、小規模漁業者がネットワークを組んで国内外の認証を取れるように関係者の協力をお願いしていく。漁業の現場は危機的な状態にあり、省庁間や関連系列間の調整に手間取る労力を、壁を越えて実質を得る方策の実現に向けるべきと考えている。

参照

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