English

環境省環境研究総合推進費S-13 持続可能な沿岸海域実現を目指した沿岸海域管理手法の開発環境省環境研究総合推進費S-13 持続可能な沿岸海域実現を目指した沿岸海域管理手法の開発

Home » 研究報告会 » Coast Bordeaux 2017(フランス・ボルドー)・ マレーヌのカキ養殖場等視察の概要

2017年12月1日

Coast Bordeaux 2017(フランス・ボルドー)・ マレーヌのカキ養殖場等視察の概要

Coast Bordeaux 2017に参加するとともに、フォーラムのSessionでS13プロジェクトの概要について発表。またビスケー湾に面したマレーヌのカキ養殖場等を視察

日時
2017年11月7日(火)~10日(金)
場所
ボルドー大学(フランス)

主催

仏日海洋学会

フランスのカキ養殖

2017年11月4日(土)、フランス南西部ビスケー湾に面したマレーヌのカキ養殖場を訪れた。この地の養殖カキ生産量はフランス全土の約50%を占めている。マレーヌでは、沖合の干潟で採苗し、1~2年育成したカキに、沿岸の塩田跡池で育てた植物プランクトンを1~6カ月食べさせ、大きく育てて出荷する。運が良いと、外縁部がエメラルド色に着色した“エメラルドカキ”が出来て、高値で売れるとのことである。“エメラルドカキ”は故ミッテラン大統領が死の直前に「何が食べたいか」と聞かれ、これを所望し食べて、「至福!」と言って死んでいった、という逸話で名高い。 漁民は塩田跡池に、大潮時干満差約6mに達する満潮を利用して、海水を導入し、堰を閉めて植物プランクトンを培養し、沖合で大きくしたカキを、この池で養殖して出荷する。カキを取り上げた後は、大潮干潮時に海水を抜き、殺菌のため底干し、耕耘し、窒素・リンを施肥後、珪藻シストを散布して、次のカキ養殖にそなえる。

“エメラルドカキ”は珪藻のナビキュラ属という葉緑素を多く持つ植物プランクトンをカキが摂食した場合に出来るが、まだ種まで特定出来ていないので、意図的に“エメラルドカキ”を作り出すことはできない。現在フランス国立海洋研究所で鋭意研究が行われている。漁民は「天・地・人の運が重なった時に、初めて“エメラルドカキ”ができる」と笑っていた。もはや農業と言えそうな、この地のカキ養殖であるが、ポンプなど一切の動力を用いず、「干満差だけを利用したカキ養殖池の水位調整が、池の水質を良好に保ち、カキを大きくするために、最も重要だ」と語る現地カキ養殖リーダーは漁師の顔をしていて、フランス版Satoumi創生実践者だった。

翌週11月7日(火)~11月9日(木)はボルドー大学で、日仏のカキ養殖業者・行政関係者・研究者約50名が参加して、「日仏カキ養殖Forum」が開催された。

フランス側からは「カキのエラに詰まるなどの悪影響を与える“ヌタ”の発生は、春・秋の植物プランクトンブルームと関係していて、近年海水中のN・P・Siバランスが変化し、それが植物プランクトンへのストレスとなり、粘性物質を滲出することで起こる」、「カキ養殖場の水質悪化に関係する農薬・環境ホルモンなどの海水中濃度変化モニター体制と水質保全に果たす関係自治体の役割」、「多くの利用が摩擦を起こす可能性がある沿岸海域の空間利用に対するカキ養殖の位置づけと、それに関連するフランス国内法」、に関する発表があった。

日本側からは「宮城県松島湾では、潮間帯における籠養殖で、干出に強い1年生“粒カキ”を生産しているが、これが殻付カキとして東京のオイスターバーで高く売れている」、「宮城県唐桑湾では、2011年3月の大津波ですべての養殖施設を失ったが、1)カキ養殖を筏式からはえ縄式に変えて省力化し、2)海底ゴミ調査を行い、その結果を県の海ゴミ回収船に伝えて、回収船の効果的運用を可能にし、3)不良組合員の退合を勧告し、漁場整理を行って活性化を図った、などの対策が功を奏し、2014年には震災前のカキ生産量を回復した」、「宮城県志津川湾では、震災後カキ養殖量を1/3に減らした結果、カキ成長率が2倍になり、同時に海底付近の貧酸素水塊が消滅した」、「岡山県日生では漁民の播種によるアマモ場回復活動が実を結び、水中酸素濃度が増加し水温が減少したので夏季のカキ弊死率が減少し、荒波で剥離したアマモ葉表面の付着藻類・付着動物がカキの餌になることでカキ成長率が増加した」「環境省S13プロジェクトではカキ養殖場を含む沿岸海域をきれいで・豊かで・賑わいのある沿岸海域(里海)とすべく、どのような沿岸海域管理が適切かを研究している」、という報告があった。

さらに、日仏共同研究の成果として「瀬戸内海・広島湾と地中海・Thauラグーンのカキ養殖場は、両海域とも貧栄養化が進んでいる。広島湾ではカキ養殖場とアマモ場を隣接させ栄養物質循環効率を高めることでカキ生産量落ち込みを防止しようとしている。Thauラグーンでは生産効率・販売戦略・福利効果などカキ養殖の多機能性を強化することで、カキ生産量の落ち込みをカバーしようとしている」という報告が行われた。

総合討論では「カキ養殖場の水質を魚病が発生しないでカキ成長率の高い状態に保持するためには、養殖場に流れ込む水を供給する山・田畑・都市などでの水質保全が必須で、山・平地・海における人と自然の良好な共生関係構築が非常に大切である。さらに現在の人々の生業を高校生・中学生・小学生に正しく伝える環境教育活動も重要で、Satoumiという考え方は日仏両国で有効である。日本における2011年の三陸大津波やフランスでほぼ毎年起こる高潮は、“我々人間が自然とどう関わらなければならないか”という基本姿勢に関する大きな示唆を与えてくれている。すなわち、避けられない自然災害に対しては減災・地域文化継承という視点から様々な対策を構築していかなければいけない」という了解が得られ、今後もこのようなForumを開催することは有意義だということが確認された。

塩田跡カキ養殖池。右端の小さい四角がカキの入った養殖かご

参照

報告(柳)フランス・カキ養殖