閉鎖性海域の環境の保全と適正な利用をめざして 公益財団法人 国際エメックスセンター

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令和3年度若手研究者活動支援について

投稿日:2021年6月1日

公益財団法人国際エメックスセンターは調査・研究体制の強化を図るため、様々な取り組みをしています。その一環として、令和2年度より若手研究者活動支援制度を設置し、閉鎖性海域の環境保全に資する研究に取り組む優れた若手研究者を育成支援することとしました。
この制度を通じて、優秀な若手研究者を発掘して若手研究者間及びエメックスセンター研究員会議等とのネットワークを構築し、閉鎖性海域に関係する研究者の国際的な研究の発展をめざします。

募集テーマ

研究プロジェクトのメインテーマ「豊かな沿岸海域生態系のあるべき姿を明確にする」

サブテーマ
  1. ダムを含む河川からの砂・栄養物質供給の歴史的変遷と、その影響下にある沿岸生態系の変遷の関係を明らかにする。
  2. 海岸・港湾堤防などの人工構造物や埋め立て、浚渫・海砂利採取などによる、浮遊・付着・底生生物を含む物質循環動態の変化とその時系列変化を含め明らかにする。
  3. 養殖場のある海域とない海域の、浮遊・付着・底生生物を含む物質循環動態の違いを明らかする。

助成対象者情報

氏名 研究課題名 所属
小森田 智大 有明海に面する緑川河口干潟における
アサリ資源回復に向けた統合的研究詳しくはこちら
熊本県立大学 環境共生学部
中谷 祐介 瀬戸内海の湾灘スケールの水・物質循環に
及ぼす沿岸開発の影響評価(その2)詳しくはこちら
大阪大学 大学院工学研究科
地球総合工学専攻
吉田 毅郎 養殖海域の底生生物による
環境負荷低減効果に関する研究 (その2)詳しくはこちら
東京海洋大学 学術研究院
海洋環境科学部門
藤林 恵 陸域から供給されるケイ素の歴史的変遷と
干潟生態系の群集構造に与える影響詳しくはこちら
九州大学 大学院工学研究院
中國 正寿 有機地球化学的アプローチからみたカキ養殖場の物質循環詳しくはこちら 香川大学 農学部
比嘉 紘士 東京湾における埋め立て・浚渫の地形変化による水底間の物質循環の変化と二枚貝生活史への影響の把握詳しくはこちら 横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院

有明海に面する緑川河口干潟における
アサリ資源回復に向けた統合的研究

熊本県立大学 環境共生学部
環境共生学科環境資源学専攻

准教授小森田 智大

熊本県立大学環境共生学部に勤めている小森田 智大と申します。昨年度に引き続いてEMECSセンターの「令和3年度若手研究者活動支援制度助成金」に表題の研究課題にて採択して頂きました。本助成金では、研究費を支給して下さることに加えて、高名な先生方からのご指導を受ける機会も頂けるので、毎回のヒアリングや成果報告会では気持ちを引き締めて勉強させてもらっています。

私は「どうすれば沿岸域で円滑な物質循環を築き、人間が持続的な生物生産を利用できるようになるのか?」ということをテーマに研究しています。その中でも私の主なフィールドである有明海は日本最大級の砂質干潟があり、その広大な干潟に生息する二枚貝群集は現地の基礎生産物を消費し尽くすことが分かってきました。このように有明海の干潟にはまだまだ高い生産性があるものの、周知の通り漁獲対象のアサリやハマグリの漁獲量は軒並み低水準のままです。資源量回復に向けた方法の1つとして、2010年頃に網袋というナイロン袋に砂利を入れた着底促進技術が報告され、全国的に実用化が進められています。しかし、網袋を効果的に運用するためには、「どこに置けば良いのか?」という疑問に答える必要があります。私はこの疑問に答えるために、熊本県の緑川河口干潟で行われているアサリ等の資源量調査の結果に着目し過去20年間の調査結果を整理しました。そして、過去にアサリが着底していた場所と着底しなかった場所にそれぞれ網袋を置くと、過去のアサリの着底の有無と網袋で捕集できるアサリの個体数が対応すると予測しました。この予測が的中すれば、網袋の効果を最大限に発揮できる運用方法の提案につながります。

網袋に関する過去の文献を整理すると、場所によって網袋内外におけるアサリの死亡率が異なることが分かりました。網袋の中と外の両方で密度が低下する場合には共通する因子(低塩分化、餌不足)が関連し、網袋の外側だけで密度が低下する場合には網袋によって緩和される因子(流出、捕食)が影響すると考えられます。そこで、上記の実験と合わせて、網袋とその外側におけるアサリの密度低下や成長速度を比較するとともに、影響する環境要因をセンサー類(水温、塩分、クロロフィル蛍光、流向・流速)でモニタリングし、当該海域におけるアサリ資源量減少の要因を解明できると考えました。これらの知見を総合して、アサリ資源回復に貢献していきます。


瀬戸内海の湾灘スケールの水・物質循環に及ぼす沿岸開発の
影響評価(その2)

大阪大学大学院 工学研究科
地球総合工学専攻

助教中谷 祐介

2012年3月に大阪大学で博士号を取得し,東京大学に1年間勤めた後,2013年4月から大阪大学で土木工学コースの水工系研究室(みず工学領域)に所属しています.現地調査や数値解析,AIなどを手法として,湖沼・河川・流域・沿岸域を対象に,水環境に関する研究に従事しています.詳しくは紹介ホームページ(https://researchmap.jp/nakatani_civil_osaka>)をご覧ください.

本支援制度では,昨年度に引き続き,「瀬戸内海の湾灘スケールの水・物質循環に及ぼす沿岸開発の影響評価」という研究課題に取り組みます.瀬戸内海では海面の埋め立てや防波堤の建設に伴い,多くの地形改変が行われてきました.防災,港湾整備,廃棄物処理のためには将来も沿岸開発は避けられませんが,その水環境への影響を正しく理解した上で沿岸生態系を管理していくことが重要です.地形改変による水環境への影響については,事業周辺への影響に着目した港域スケールの評価が従来行われてきましたが,実は湾灘スケールの影響については十分な評価はなされていません.しかし,例えば大阪湾では,湾奥部の地形改変は港域スケールの水環境を局所的に変化させるだけでなく,湾スケールの残差流系や水質構造,さらには隣接海域の潮流や物質収支にまで無視できない影響を及ぼすことが最近分かってきました.本研究課題では,大阪湾で行ってきた検討を瀬戸内海全域に拡張し,地形改変が瀬戸内海の水・物質循環に及ぼす影響を最先端の三次元数値シミュレーションにより明らかすることを目的としています.昨年度は,外洋域を含む瀬戸内海全域を対象に高解像三次元流動モデルを構築し,まだ埋め立てが進行していなかった1930年代と比較して,現在では海水の流れや水温・塩分の構造,湾灘間の水交換性がどのように変化したのかを明らかにしました.2年目である今年度は,構築した流動モデルに低次生態系モデルをカップリングし,地形改変が湾灘スケールの水質や栄養塩輸送に及ぼす影響について解析を行います.

本研究で構築する数値モデルは,瀬戸内海が現在直面している様々な水環境問題(赤潮,貧酸素水塊,貧栄養化,COD管理など)の機構解明や方策検討への利用も期待できます.本研究を出発点として,瀬戸内海の水環境に関する研究を将来展開し,社会に役立つ成果・知見を示していきたいと考えています.


養殖海域の底生生物による
環境負荷低減効果に関する研究 (その2)

東京海洋大学 学術研究院 海洋環境科学部門

准教授吉田 毅郎

2013年3月に東京大学大学院新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻にて博士(環境学)を取得、2021年4月より東京海洋大学海洋環境科学部門にて准教授として勤務しています。海洋環境・生物に関する研究に従事しています。特に、環境に調和した海洋利用を目指しており、海洋と人類との共存共栄に向けた研究に取り組んでいます。本研究は東京大学生産技術研究所海洋生態系工学研究室との共同研究で実施します。本研究概要としては、養殖海域の環境保全のため養殖海域の底生生物による環境負荷低減効果に関する研究を行います。養殖は主に沿岸域で行われていますが、養殖場は自家汚染(養殖魚の排泄物や残餌によって周辺環境が悪化し、養殖魚の成長に負の影響を及ぼすこと)が生産性を低下させる可能性を持ちます。そこで本研究では、養殖場の底生生物によって養殖魚の排泄物を吸収させることによって、沿岸養殖場の環境負荷を低減し生産性の低下リスクを抑制する効果を検討することを目的とします。本研究では、養殖海域を模擬した数値シミュレーションや実海域における生物育成試験によって底生生物の環境改善効果を考察します。試行する養殖場として、国内のギンザケ養殖場を想定し、底生生物はナマコやギンポなどを対象とすることを検討してます。本研究では、これまでに使用してきた流れ場・生態系結合数値モデルをさらに改良し、ギンザケ養殖生簀周辺の底生生物による影響を含めるように改良します。実海域試験については箱網を生簀下に設置して底生生物の育成と環境負荷低減効果を検証することを検討してます。また、底生生物のモニタリング技術開発として、生簀周辺の底生生物の種類や数を把握することで、どのくらい養殖場の排泄物が吸収されているかを検討するために、実海域において養殖場周辺の底生生物のモニタリング手法について海底設置型水中カメラなどの基礎開発を行います。長期的に海底設置型水中カメラを設置することによって、生簀下に集まる底生生物をモニタリングすることが可能かどうか検討を行います。これらの研究を通じて、将来的に実際の養殖場で底生生物の影響を計測・把握するための基盤を形成することを目的とします。


陸域から供給されるケイ素の歴史的変遷と干潟生態系の
群集構造に与える影響

九州大学 大学院工学研究院

助教藤林 恵

この度、本研究助成に採択いただき、研究する機会を得たこと、大変ありがたく思っております。採択者の研究計画発表会に参加し、またアドバイザーの先生と議論している中で、本制度は研究費の支援にとどまらず、指導を通した若手の育成をとても大切にしていただいていると実感いたしました。また、公募の際に提示される研究テーマ自体が沿岸域の研究の方向性に対する示唆を含んでおり、申請研究を考える上で大きなヒントとなりました。テーマ提示の段階から既に育成がスタートしていたようにも思います。ご期待に添えることができるよう本研究課題に取り組んでまいりたいと思います。

私は水圏生態系における脂肪酸の動態に関心があります。脂肪酸は、水産分野では餌の質を表す指標として、生態学分野では食物連鎖を推定するためのトレーサーとして活用されています。脂肪酸の栄養的側面、トレーサー的側面のそれぞれを活用し、健全な水環境を保全・管理していくための方策の提言や、食物網を活用した生態工学的水質浄化技術の開発を目指しております。

高度不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)が餌として十分に供給されると、水生動物の成長速度や生残率が改善することが知られています。これまでの研究から、実際の生態系においても、餌として供給されるEPAが水生動物の種数やバイオマスの制限因子として顕在化しうる可能性が見えてきました(図1)。すなわち、EPAの供給量を十分に確保することが健全な生態系の維持・管理に有効かもしれません。これは「EPA仮説」と呼ばれています(私だけに)。

今回採択していただいた研究課題では、EPAを合成する微細藻類の珪藻の増殖に不可欠な元素ケイ素に注目しました。沿岸域に供給されるケイ素は主に陸由来ですが、陸域からのケイ素供給量はダムの有無や排水の流入といった人為的活動に影響を受けると考えられます。そしてケイ素供給量の変化は、珪藻の増殖に影響し、結果としてEPA生産量が変化し、沿岸域の底生動物群集構造に影響を与えていると考えました。本研究課題では、福岡県瑞梅寺川流域を調査対象地として、ダムや下水処理水の流入がケイ素供給に与える影響を評価するとともに、河口域のコアサンプルを用いて歴史的なケイ素供給量と珪藻現存量との関係を調べます(図2)。さらに、河口域の今津干潟を対象にEPA仮説の検証も進めていきます。


有機地球化学的アプローチからみたカキ養殖場の物質循環

香川大学 農学部

博士研究員中國 正寿

この度は,EMECS令和3年度若手研究者活動支援制度助成金に採用を頂き大変にありがとうございます.現在,私は,香川大学農学部にて博士研究員として,播磨灘を中心に瀬戸内海の物質循環の研究に取り組んでおります.
本研究テーマは,「有機地球化学的アプローチからみたカキ養殖場の物質循環」です.牡蠣は,海水をろ過し,その中に含まれる植物プランクトンなどを餌資源とし,海域の水質を浄化する役割があるとされています.一方で,牡蠣養殖場直下では,牡蠣の排泄物などによって多くの沈降粒子が溜まっており,養殖場直下では,底質負荷をもたらしているとの指摘もあります.では,牡蠣養殖場があることによって物質循環は,どのように変化しているのでしょうか.その物質循環を有機バイオマーカーを用いて明らかとすることを試みます.

生物の作り出す有機物は,多様性に富んでいます.例えば,真核生物は,細胞膜にコレストロールなどのステロール類を持ちますが,原核生物には,ステロール類の代わりにホパノール類と呼ばれる化合物が含まれています.また,ステロール類の中でも,例えば,24-メチレンコレステロールは珪藻に多く含まれ,ブラシカステロールは羽状目珪藻に,4-メチルステロールは渦鞭毛藻に含まれるステロール類です.一方で,細胞壁を持つ維管束植物は,リグニンと呼ばれる高分子化合物を持っています.これらの有機物の多様性は,有機物が何に由来するのかを追うための指標として利用可能です.本研究では,この特性を生かして,牡蠣養殖の物質循環の理解に挑みます.

さらに本研究では,牡蠣とナマコの脂肪酸組成の分析も行います.DHAやEPAなどの必須脂肪酸は,海洋の食物連鎖では,微細藻類から始まり,高次栄養生物へと引き継がれていきます.牡蠣は,ろ過によって微細藻類を捕食するため,季節ごとに変化する微細藻類によって,牡蠣中の脂肪酸組成は,変化すると期待されます.また,牡蠣養殖場直下で多くみられることが確認されており,牡蠣養殖場から発生する沈降粒子を餌としていれば,これらの脂肪酸組成も,牡蠣同様に,季節ごとに変化していると考えられます.牡蠣養殖場を起点とする物質循環およびそこに生息する生物の栄養素の変化を有機化合物の視点から追っていきます.


東京湾における埋め立て・浚渫の地形変化による
水底間の物質循環の変化と二枚貝生活史への影響の把握

横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院

助教比嘉 紘士

この度,令和3年度若手研究者活動支援助成に採択頂きました.感謝しております.私は東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻にて,海色リモートセンシングによる沿岸環境モニタリング手法の開発をテーマに博士論文を執筆し,学位取得後,2016年4月から横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院の水環境研究室にて助教として勤務しています.私は沖縄県の出身で,大学生の頃,いつか故郷である沖縄の海を研究してみたいと思い,水環境の研究室の配属を希望し,それから現在まで幸運にも水環境に関わる研究に従事しています.東京大学では,主に沿岸域を対象とした人工衛星データによる環境観測を研究しておりましたが,横浜国立大学に着任してからは,中村由行教授のもとで東京湾の青潮に関する現地観測や数値計算にも携わらせて頂き,現在では幅広く「豊かな水環境の創出」を目指すべく研究に取り組んでいます.

私の研究課題は,「東京湾における埋め立て・浚渫の地形変化による水底間の物質循環の変化と二枚貝生活史への影響の把握」です.東京湾は「豊饒の海」とされ,江戸時代より漁業生産の場として利用されていましたが,漁獲量は1960年の18万7,928トンが現在2万トンを下回り,回復の兆しが見えず長期的に低迷している状態です.東京湾の生産力は著しく低下していると考えられ,迅速な対応が求められていますが,豊かな海を取り戻す物質循環のバランスについては未だ答えが出ていないというのが現状です.そのため本研究では,浮遊性の微生物ループ,水底間の物質循環,CPUEの情報が得やすい二枚貝生活史を考慮した,詳細な生態系を表現する数値モデルを構築し,東京湾の沿岸開発による生態系への影響を定量的に明らかにすることを目指します.また,本研究における数値モデルの構築は,東京湾の地形変化による生態系への影響の把握だけでなく,将来的には,流入負荷量の増減に対する長期的な変化の把握,低次生態系から魚等の高次生態系へのパスの定量化,生態系サービスの評価に応用できる可能性があり,豊饒な東京湾のデザインに関する知見を得ることに期待しています.


タイムスケジュール(令和3年度)

令和3年4月~末 公募の開始
5月 研究員会議で選考・採択
6月 決定通知 契約 ⇒ 研究開始
研究実施計画のヒアリング
11月 中間報告
令和4年3月 研究終了・報告書提出
5月(予定) 公開成果発表会

事務局・連絡先

(公財)国際エメックスセンター
担当:大輪
〒651-0073
神戸市中央区脇浜海岸通1丁目5番2号
TEL 078-252-0234 FAX 078-252-0404
E-mail owa @emecs.or.jp